Teams

微生物学・人工細胞研究・
統計物理学・力学系理論などを
バックグラウンドとする研究者からなる
4つのチームで構成されています。

細胞蘇生

細胞蘇生班においては、嫌気環境下における大腸菌細胞の転移境界(生死境界)を実験的に明らかにすることと、その転移境界を逆向きに横断すること、つまり細胞の蘇生を目標としています。
本課題においてはまず、大腸菌代謝の数理モデルを用いて、生きている状態と死んだ状態を隔てる生死境界を計算します。その後に、ストレスに曝露された細胞が再増殖できるか否か、また細胞内の代謝物質濃度などを一細胞レベルで計測し、細胞の内部状態と再増殖確率の関係を明らかにすることで、生死境界を実験的に定量します。生死境界の理論予測と実験定量は、数理モデルの正確さと、任意の操作を許すか否かという2点を主な原因として、一致することは自明ではありません。理論と実験の乖離が何に起因するのかを明らかにすることも本研究の目的のひとつです。
生死境界定量の次には、細胞の蘇生実験を行います。細胞は遺伝子発現などを制御することで細胞内物質の濃度を変化させますが、何らかの物質を得るためにはその原料が必要で、無から物質をいきなり生み出すことはできません。しかし本計画では、特殊な生化学物質を用いて、あたかも「無から物質が生まれる」かのような操作を行うことで細胞の蘇生を目指します。これにより、細胞は生死境界を「非生命」から「生命」側へと跨ぐようなことが実際に可能であることを実証します。

姫岡優介

​(東京大学)

専門:システム生物学

1990年広島県生まれ。東京大学大学院総合文化研究科博士課程修了。コペンハーゲン大学 ニールス・ボーア研究所(デンマーク)博士研究員を経て2021年より東京大学大学院 生物普遍性研究機構助教。博士(学術)。

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横山文秋​

(東京大学)

専門:細胞微生物学

1991年大阪府生まれ。京都大学大学院農学研究科応用生命科学専攻博士後期課程終了。京都大学化学研究所博士研究員、ETH Zurich Department of Biosystems Science and Engineering Postdoctoral Fellow, 東京大学大学院物理学専攻特任研究員を経て2023年より日本学術振興会 特別研究員(PD)。博士(農学)。

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細胞死

細胞死班の研究課題は、「死」のプロセスにはどのような多様性、あるいは共通性があるかを、大腸菌と分裂酵母を用いて明らかにすることです。
「死」は言葉にしてしまえばひとつですが、死因の異なる「死」は現象として全く別のものなのでしょうか。それとも「生命の失われ方」には、その原因の詳細によらない共通性があるのでしょうか。飢餓で亡くなることと、細胞の損傷で亡くなることは全く違う現象のように思えますが、実はどこかに似ている部分があっても良いかも知れません。
本課題では、原核生物である大腸菌と、真核生物である分裂酵母という大きく異なる単細胞微生物を対象に、様々なストレスで細胞死を引き起こし、死過程における細胞内状態の変化を解析します。具体的には、pH、飢餓、温度、薬剤など多様なストレスを用いて細胞死を起こし、その過程における細胞内状態変化をオミクス計測・ラマン分光解析・ライブイメージングなどにより測定します。得られた高次元の時系列データを機械学習アルゴリズムなど用いて低次元の潜在空間へと射影して解析することで、異なる種・異なる死に方を跨いで共通の「生命の失われ方」が存在するか否かを明らかにします。

中岡秀憲​

(徳島大学)

専門:分子生物学

1981年京都府生まれ。京都大学大学院生命科学研究科博士課程修了。東京大学大学院総合文化研究科博士研究員、京都大学大学院生命科学研究科助教を経て2024年より徳島大学 先端研究推進センター 助教。博士(生命科学)。

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加藤節

​(​広島大学)

専門:定量微生物学

1982年神奈川県生まれ。東京大学大学院農学生命科学研究科博士課程修了。イェール大学博士研究員、広島大学大学院先端物質科学研究科助教, 統合生命科学研究科助教を経て2022年より同大学院統合生命科学研究科 准教授 。博士(農学)。

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人工細胞

人工細胞とは、人の手によって化学的に合成された「生命のような化学システム」のことを言います。人工細胞研究の目的のひとつは、生細胞のようにいつまでも自己増殖を続けるシステムを1から構築することですが、現時点では複数回分裂すると自己増殖能力がなくなってしまいます。人工細胞の分裂可能回数がどんどん伸びていき、ついに際限なく増殖を続けられるようなものが作れれば、私たちは「非生命」である化学物質を組み合わせて「生命」(のようなもの)を創れたと言えます。本計画では、人工細胞が自己増殖能をどのようにして失っていくのか、どのような制御が行われれば自己増殖能の喪失を回避できるのかを実験・数値シミュレーションの両面から明らかにすることによって、「非生命」から「生命」への転移の実現に近づきたいと考えています。
具体的には、これまでに計画代表が構築している人工細胞を用いて、分裂能力喪失過程における分子濃度をラマン分光解析によって計測し、そのダイナミクスを明らかにします。人工細胞ひとつひとつの個体差(化学組成の違い)によって分裂可能回数が異なると期待されるため、この解析によって「分裂を継続できる化学組成」を明らかにできると考えられます。生細胞においてこのような組成を見出すことは容易ではないのですが、人工細胞は生細胞に比べて物質組成が極めて単純であり、かつ構成要素が完全に分かっていることから、化学組成と機能の対応づけが可能となります。分裂継続のための理想的な化学組成を保つように、フィードバック制御などによって人工細胞への物質供給レートなどを制御することで、人工細胞の分裂回数を増大させます。また、その先に際限のない分裂が可能となるのか、あるいはそこには原理的な限界があるのかの解明も目標としています。

栗栖実​

(東北大学)

専門:ソフトマター物理学

1994年島根県生まれ。東北大学大学院理学研究科博士課程修了。2022年より東北大学 大学院理学研究科 物理学専攻 領域横断物理学講座 助教。博士(理学)。

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増殖系理論

生命の定義のうち最も有名なものは「内外との境界があり、代謝をし、自己増殖する」というものです。しかし生命の定義はこれで十分というわけではなく、他にも多くのものが提唱されています。そのうちのひとつに「ダーウィン進化する能力を持つ化学システム」という定義があります。人工生命研究や生命の遺伝子操作には倫理的問題が伴いますが、その背景には「もしも進化してしまって手がつけられなくなったら大変だ」という懸念があります。実際、進化によって生み出される想像を超える生命のバラエティには息を呑むものがあり、進化は生命を理解するうえでなくてはならない要素だと考えられます。「ダーウィン進化する能力を持つ化学システム」はこの点に焦点を当てた定義であると言えます。
それでは、ある化学システムが進化能を持つために必要な条件は何でしょうか。コップのなかの水も化学システムではありますが、それが進化していく未来というのはちょっと想像がつきません。進化を起こすためには、やはりシステムにある程度の複雑さが必要なのではないかと考えられます。必要とされる複雑さはどの程度なのでしょうか。また、複雑なものほど進化はしやすいのでしょうか。本研究計画では、「難しさ」や「複雑さ」を測る科学である計算複雑性理論や、自己増殖システムの古典的理論であるフォン・ノイマンの万能コンストラクタの理論などを用いて、ある化学システムが「生命」となるにはどれほどの複雑さが必要であるか、またそれはどれほど難しいのかの理論構築を目指します。

高橋惇​

(東京大学)

専門:計算物理基礎論

1990年神奈川県生まれ。東京大学大学院総合文化研究科博士課程修了。中国科学院物理研究所や米国ニューメキシコ大学 Center for Quantum Information and Control等での博士研究員を経て2024年より東京大学 物性研究所附属物質設計評価施設 助教。博士(学術)。

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領域アドバイザー

  • Peter Walde 名誉教授(ETH Zürich)
  • 金子邦彦 教授(Niels Bohr Institute)
  • 松田史生 教授(大阪大学)
  • 松浦友亮 教授(東京科学大学)
  • 小林徹也 教授(東京大学)
  • 青木一洋 教授(京都大学)

学術調査官

  • 井上賢一 助教(東北大学)
  • 鶴岡典子 助教(東北大学)